武蔵野マガジン

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ミツバチたちと一緒に起こした「やさしい革命」|齊藤珠希さん

文=菅野浩二(ナウヒア) 写真=本人提供、小黒冴夏

齊藤珠希(さいとう・たまき)さん|大和リース株式会社 横浜支社勤務
東京都出身。2022年3月、武蔵野大学の工学部環境システム学科を卒業。武蔵野大学については、武蔵野キャンパスは自然豊かで伸びやかな雰囲気が好きで、有明キャンパスは都会的な街並みながら近くに大きな公園がある環境が気に入っていた。小さなころから自然が好きで、2022年4月から勤務する大和リース株式会社ではいずれ緑化や、コミュニティーづくりに携わりたいと考えているという。趣味は神社巡りや温泉旅行。御朱印集めも楽しんでいる。

ミツバチに誘われて、環境システム学科に入学

大学時代はミツバチと一緒に過ごした 大学時代はミツバチと一緒に過ごした

地球上からミツバチが消えると、人類は4年しか生きることができないと言われています──衝撃的な一文に目を奪われたのは高校3年のときだ。進路選びをしていた際、武蔵野大学で養蜂のプロジェクトに取り組んでいる先輩たちがSNS上でミツバチの重要性を発信していた。

ミツバチによる受粉がなければ、人間の食べる食料が不足してしまう。そんなふうに世界は成り立っているのかと思うと、環境に対する興味が強まっていった。齊藤珠希さんは思い出す。

「最初は武蔵野大学でも別の学科に注目していたんですが、ホームページやSNSの情報をチェックしたり、実際にオープンキャンパスに足を運んで工学部のパンフレットを見たりしているうちに、どんどん環境システム学科に引かれるようになりました」

工学部環境システム学科で学んだ 工学部環境システム学科で学んだ

武蔵野大学の環境システム学科が展開する「環境プロジェクト」としては、海洋プラスチックの問題に対する取り組みや、田舎の古民家を改築して有効活用する活動などが紹介されていた。もともと暮らしやすいまちづくりや、さまざまな人が憩いの場所として集まるコミュニティーの構築などに関心があった齊藤さんは、人々の暮らしと向き合う工学部環境システム学科に進学することに決めた。武蔵野大学で養蜂活動に打ち込むという目標もできた。

けれども、入学してすぐ壁に突き当たった。先輩方が卒業し、養蜂のプロジェクトは中断していた。学内には参考にするものがほとんどない。それでも、「養蜂をやりたい」という気持ちが上回った。齊藤さんが明かす。

「養蜂や植物に興味がある同級生2人と一緒に、3人でプロジェクトを立ち上げました。最初はゼロから勉強です。『ミツバチの教科書』という書籍を読み込んで、大学の先生に養蜂家の方を見つけていただきました。そして、その方に協力してもらいながら、有明キャンパスの屋上に巣箱を置いてミツバチを育て始めました」

Musashino SDGs Awardの最優秀賞を受賞

プロジェクト名を「Rooftop Bee」と決め、週に1、2回、防護服を着てミツバチたちの住処である巣箱をチェックし、メンテナンスに励んだ。

女王バチがいるか、ミツバチたちの数が適正か、病害虫がいないかなど異常がないかを確認するのが目的だ。数が増えれば新しい女王バチが生まれ、巣分かれを起こす。分かれることでミツバチの数が減れば、採蜜できるはちみつの量も減ってしまう。そのため、ミツバチの数が増えたら、巣箱を2段にしたり、中の板を増やしたりして、住みやすい環境を整えた。

地道な作業だが、「ミツバチがいなくなったら本当に人間が困ってしまうという情報発信をしたい」という信念があった。はちみつの採取は二次的なものであり、人の営みにおけるミツバチの存在価値を広く知ってほしいという思いがあった。齊藤さんが説明する。

「2年次の冬に初めて10キログラムのはちみつが採れたので、あるイベントで販売することにしました。活動資料には『私たちに自然の恵みを届け、花粉媒介者として生態系のキーパーソンであるミツバチとともに暮らすことは「やさしい革命」である』と記載し、商品名を『やさしい革命』としました。『やさしい革命』という名前には持続可能な未来をやさしくつくってくれるという願いも込められていて、ミツバチが地球環境においてどれだけ重要な役割を果たしているかを記したブックレットも制作しました」

たった3人で始めた「Rooftop Bee」は後輩たちが入り、齊藤さんが3年になった際には8人のプロジェクトになっていた。この年、青山ファーマーズマーケットでも出店。3年次の冬には「大学屋上での養蜂活動によるミツバチの保護及び生態系の重要性・都市の可能性の発信」が認められ、ほかの7人のメンバーとともに第3回 Musashino SDGs Awardの最優秀賞を受賞している。

齊藤さんたちが立ち上げた「Rooftop Bee」の活動は後輩に引き継がれている。SDGs関連のイベントで「ミツバチが世界を救う!?」をテーマにゲストとして登壇したり、有明キャンパス内にあるロハスカフェARIAKEで「やさしい革命」の委託販売をしたりと活動の幅を広げている。

  • 有明キャンパスの屋上で採れた「やさしい革命」を販売した

    有明キャンパスの屋上で採れた「やさしい革命」を販売した

  • 有明キャンパスの屋上に巣箱を置いてミツバチを育てた

    有明キャンパスの屋上に巣箱を置いてミツバチを育てた

  • 2年次の冬に初めて10キログラムのはちみつが採れた

    2年次の冬に初めて10キログラムのはちみつが採れた

  • 養蜂家の方の手伝いを通して、イベント出展について学んだ

    養蜂家の方の手伝いを通して、イベント出展について学んだ

社会人として持続可能な社会づくりに邁進

武蔵野大学では社会と関わる時間が多かったという 武蔵野大学では社会と関わる時間が多かったという

「のびのびと過ごせました」と振り返る4年間の思い出は、「Rooftop Bee」だけにとどまらない。

1年次には岡山県でのパーマカルチャー合宿を通じて人と自然がともに豊かになるデザインを学び、環境に配慮した生活を再考。3年次には東京都による自然環境保全のための人材育成・認証制度の「ECO-TOPプログラム」を利用してインターンシップの経験を重ねた。東京都の環境局や、隅田川の川辺の生き物の環境を整備するNPO法人、足立区の公園管理をしている企業で職業体験を積み、社会との関わりを深めた。

武蔵野大学では社会の当事者として生きる大切さを学んだ。齊藤さんは言う。

「座学で環境問題についていろいろ学ぶ一方、やはり自分で手を動かした経験が大きかったと思います。実践的に自分で物事に触れると、より自分事として捉えられますし、それを誰かと一緒に取り組むことでコミュニティーも大きくなります。武蔵野大学の環境システム学科では、どんなことも自分事として捉えて、次に何をするべきかを自ら考える力がついたと思います」

2022年4月に公共施設整備や土地活用、商業施設の開発や運営などを手がける大和リース株式会社に就職した。養蜂活動やインターンシップを通して学生時代から社会人と接する機会が多かったため、働き始めるのにもそれほど苦労はなかったという。

就職して2年目。現在は公民館や市立保育園を整備する事業に従事している。行政的な立場からまちづくりに関われている感覚が楽しい。もともと暮らしやすいまちづくりや、多様な人が憩いの場所として集うコミュニティーの形成などに興味があった齊藤さんは、大学時代の経験を生かしながら、夢を叶えるように持続可能な社会環境づくりに邁進している。「使う人たちのことを考えたまちづくりをしたいです」と話すとき、目がきらきらと輝いた。

※記事中の肩書きは取材当時のものです。また、学校名は卒業当時の名称です。

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