武蔵野マガジン

MUSASHINO CONNECTION

「『自分が好きなこと』で輝ける子どもたちを育てていきたい」|黒崎圭祐さん

文=菅野浩二(ナウヒア) 写真=本人提供、鷹羽康博、小黒冴夏

黒崎圭祐(くろさき・けいすけ)さん|小学校教諭
徳島県徳島市出身。2022年3月、武蔵野大学教育学部教育学科を卒業。学生時代は「武蔵野大学アカペラ同好会(Musashino A cappella Movement/MAM)」に所属し、第8期執行代部長を務めた。小学校教諭1種免許状を取得。小学校の教諭となったあともアカペラを続けている。いずれは故郷の徳島県に戻って先生として地域貢献したいと考えている。

サークル内のオーディションは2年連続で落選

武蔵野大学でアカペラをやる。入学前からそう決めていた。

現在、東京都内の小学校の教諭として子どもたちと向き合う黒崎圭祐さんは振り返る。

「推薦で合格が決まったあと、SNSで武蔵野大学のアカペラのサークルの動画を見たんです。たくさんの人で歌っていて楽しそうだなと感じて、自分もやりたいと思いました」

高校生の黒崎さんの目を留めたのは「武蔵野大学アカペラ同好会」だ。「Musashino A cappella Movement」の異名を持ち、「MAM(マム)」の愛称で活動している。2011年に有志によって立ち上がった。黒崎さんは入学と同時にMAMのメンバーになった。

学生時代の写真。3年次には部長を務めた 学生時代の写真。3年次には部長を務めた

もともと音楽好きだった黒崎さんは中学時代からヒューマンビートボックスをかじっていた。口や鼻、あるいはのどといった自分の体とマイクだけで音楽をつくり出す表現が楽しくて、文化祭の舞台に立った経験もある。MAMではヒューマンビートボックスに近いボイスパーカッションを選んだ。

中学校や高校では陸上部に所属し、毎日、真剣に汗を流していた。その反動からか、大学のサークルは遊び感覚で楽しもうとしていた。けれども、ほどなく気持ちは変わった。本気で取り組む先輩たちの熱っぽさに引っ張られていく。

黒崎さんは明かす。「3月に『サークルライブ』とも呼ばれる『春ライブ』が行われるんですが、その目標に向かっていく過程が本当にひたむきなんです。ゼロから仲間と一緒に曲を仕上げていく時間も楽しくて、すぐに夢中になりましたね」

春ライブでは2年連続で悔しい思いを味わった。1年次も2年次も6人の仲間と組んだバンドでサークル内のオーディションを受けたが、どちらも落選。バンドでの春ライブ参加は叶わず、サークルの全員で歌う曲でしかステージに立てなかった。その無念さで、アカペラに寄せる思いがさらに強まった。

サークルの10周年を記念する動画を制作

2023年3月にはOBとして春ライブを鑑賞 2023年3月にはOBとして春ライブを鑑賞

2020年、折しも新型コロナウイルスが猛威をふるっていた。急遽中止となりオンライン配信を行った2年次の春ライブを終え、黒崎さんは3年次に部長に就任する。140人ほどのメンバーが揃う団体を束ねる存在になったが、壁に突き当たった。新型コロナウイルスの流行によって、対面によるサークル活動に規制がかかった。各々の熱量の違いも気になっていた。

「活動が制限されるなか、自分のように『一年の集大成としてオーディションを勝ち抜いて春ライブにバンドで立とう!』というメンバーと、『楽しくアカペラができればいい』というメンバーが混在していて、バランスをとるのが難しかったですね。サークルですし、どちらの姿勢があってもいい。それぞれのモチベーションを保つようにコミュニケーションをしっかりとるようにしました」

サークルではボイスパーカッションを担当 サークルではボイスパーカッションを担当

MAMは創立10周年を迎えていた。だが、コロナ禍にあって予定していた10周年記念ライブは開催できず、新米部長は歯がゆい思いをしていた。何かできないかと悩んでいたとき、4年生の先輩からアドバイスをもらい、10周年を記念する動画を制作することに決めた。卒業生を含むそれぞれに自分のパートを歌う姿を撮影してもらい、そのデータをつなぎ合わせ、大勢で歌声を重ねている映像を完成させた。「MAM10周年記念企画\10周年だョ/全員集合」で合唱したのはLittle Glee Monsterの「STARTING OVER」だ。「再出発」という意味を持つ曲で、サークルの10周年を祝った。

3年次の春ライブにはバンドで参加できたものの、2年次に続きオンライン配信だったため、完全燃焼はできなかったような気がする。4年次にようやく会場に観客を入れて春ライブを行うことができた。複数のバンドで舞台に立ち、200人ほどの観衆から拍手をもらった快感は忘れられない。黒崎さんは言う。

「『真剣に取り組むことの大切さ』と『アカペラって本当に楽しいんだよ』ということを伝えたいと思い、最後の春ライブに臨みました。僕たちの姿勢を見て、後輩たちが『誰かと同じ方向を向いて一生懸命に頑張る時間って素晴らしい』ということを少しでも感じ取ってくれていたらうれしいです」

交流関係や視点を広げられたのも武蔵野大学での思い出

アカペラに打ち込む一方、黒崎さんは夢を追っていた。小学校の先生になりたい──。だから、教員養成に定評がある武蔵野大学の教育学部を選んだ。同じ目標に向かう雰囲気が心地よかったと話す。

「教育学部は基本的にほとんどの人が先生をめざしていますから、目線が同じで、仲も良かったですね。学生が先生役と児童役に分かれて行う模擬授業でもしっかり協力し合ったり、的確な意見をもらったり、本当に充実していました」

サークルと教育学部だけにとどまらず、交流関係や視点を広げられたのも武蔵野大学での思い出だ。1年次には学外学修プログラムの「フィールド・スタディーズ」で他学部の同級生たちと北海道を訪れ、地域と世界が抱える課題と向き合った。同時に学部や学科の枠を超えたクラス編成で「思想・芸術」「国際・地域」「社会・制度」「人間・環境」「物質・生命」「数理・情報」の6分野を学ぶ「基礎セルフディベロップメント」を受講。学部や学科にとらわれない学びを通して、人間関係だけでなく教養も広がった。

3、4年次には学童保育のアルバイトに励み、小学校の先生になる準備を進めた。武蔵野大学を卒業してすぐ東京都で臨時的任用教員を一年間務め、2023年度に正式採用された。夢を叶えた黒崎さんの顔がほころぶ。

「大好きなアカペラに打ち込めましたし、先生になることもできましたし、武蔵野大学に入って本当によかったと思っています。子どもたちと接するうえではサークルの部長を務めた経験も生きていくはずと感じています。約140人とそれぞれ向き合うなかで『自分が好きなことに好きなやり方で取り組むこと』がいいとわかりました。『自分が好きなこと』で輝ける子どもたちを育てていきたいと考えています」

※記事中の肩書きは取材当時のものです。また、学校名は卒業当時の名称です。

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