文=菅野浩二(ナウヒア) 写真=本人提供、鷹羽康博
鈴木惇也(すずき・じゅんや)さん|千葉銀行
千葉県習志野市出身。千葉県立八千代高等学校で学んだあと、2021年3月に武蔵野大学工学部の数理工学科を卒業。大学1年次には公認クラブのバドミントン部の立ち上げに関わっている。家庭教師のアルバイトにも励んだ大学時代を振り返り、「武蔵野大学の魅力はいろんな人がいる点。出会いが多ければそれだけご縁もあります」と話す。数理工学科の同級生とは今でも付き合いがあり、月に2回程度は会っているという。
携帯電話の基地局の最適配置をグループで探る
ほかの人気大学もいくつか合格していたが、最初から武蔵野大学に決めていた。理由は「面白そうだったから」。現在、千葉銀行で法人営業を担当する鈴木惇也さんは話す。
「高校3年生のとき、2年前に武蔵野大学工学部に数理工学科が出来たばかりと知ったんです。当時はまだ数理工学を専門的に学べる大学が少なくて、どうせ学ぶのならそれまでにつくられたルートを歩くより、新設された直後で自由度が高そうだし、自分たちで道をつくっていくほうが楽しいと考えました。情報化社会においては数理工学の需要が高いだろうという思いもありました」
数理工学は数学と物理学を駆使してさまざまな課題を解決する学問だ。武蔵野大学は学科を紹介するにあたって、「数値や数式でしか処理できないコンピュータの世界では、色、形、大小などを数値に置き換えます。数理工学とは、社会や自然のあらゆる現象をそうした数字や記号などの『数学語』で理解し、問題解決を図る学問です」と発信している。大量のデータから問題の本質を見て取るデータサイエンス的な要素もあり、プログラミングの講義も用意されている。
立ち上がったばかりの数理工学科の講義はどれも個性的で刺激的だった。なかでも印象に残っているのは、一年をかけて行う「プロジェクト」という実践型授業だ。学生同士でグループを形成し、実際に数理工学の知見や技術を用いて社会の課題を解決する。鈴木さんが説明する。
「私たちは5人のグループで、関東を舞台に携帯電話の電波を送受信する基地局の最適配置を探りました。都市や地域の人口や人口密度、それから一つの基地局に収容される携帯電話の利用者数などをもとに、プログラミングを用いて、どこに何本の基地局のアンテナを立てるのが最適なのかを検証しました」
覚えたてのプログラミングはトライアル&エラーの連続だったが、その過程は社会人になっても生きるはずと思った。グループワークを通して役割分担の大切さやチームワークの重要性を学べた点も、いい経験だったと感じている。
大学祭実行委員会の総務局で社会性を育む
大学時代の思い出ではサークル活動が占める割合も少なくない。1年次から3年次まで大学祭実行委員会の実務に打ち込んだ。大学祭にあたる「摩耶祭」の準備や運営を手がける団体はおよそ200人にも及ぶメンバーで構成される。委員長局や講堂企画局、広報局や渉外局などいくつかの局に分かれるなか、鈴木さんは総務局に所属した。
「摩耶祭では部活やサークルなどが飲食を伴う模擬店を出店するのですが、その衛生周りを主に担当し、出店者たちがルールを守っているかを指導する見守りのチームではリーダーを務めていました。保健所に届け出を出したり、発注先の企業の方とメールのやりとりをしたり、社会人に近い動きができたのは貴重な経験だったと思います」
実践型の講義で社会実装力を、大学祭実行委員会で社会性を育む一方、読む行為を通じて数理工学への理解を深めていった。研究室に入った3年生のときに熱中したのは、空気や水を含む弾性体の学修だ。主に英語で書かれた書籍や論文を読み込んだという。
「3年次は、自分で手を動かして研究するより文献を読んで学んだ一年間でした。たとえば水自体は数式で表せないのですが、水をH₂Oという分子や、水素原子2個と酸素原子1個に細分化すれば、水の渦や流れなどを数式で理解することができます。分子や原子の単位で水を理解する視点をさまざまな文献を通して身につけ、それを毎回のゼミで発表するという繰り返しでした」
弾性体に対する知識を吸収したあとは、就職活動が待っていた。大学3年生が終わりに迫った2020年1月ごろから、新型コロナウイルス感染症が地球規模で流行していた。コロナ禍にあって合同説明会やインターンシップを中止する企業が出るなど就職活動にも少なからず影響があったが、実のところ、それほど苦労した記憶がないという。
「就職活動で意識したのは、ありのままを話すことだけでしたね」と明かす。数学と物理学を活用して社会課題を解決する数理工学科を学んだこと、プログラミングができること、大学祭実行委員会ではリーダーを務めて社会経験も積んだことなどをしっかりと伝えた。就職活動を始めて順調に段階を進み、見事、千葉銀行への就職が決まった。
数理工学科の集大成として、卒業論文ではコロナをテーマに選ぶ
千葉銀行から内定の通知が届くと、4年生の夏ごろからスチューデントキャリアアドバイザー(SCA)としても大学生活を送った。就職活動を終えた4年生が自身の経験をもとに、後輩たちの就活をサポートするのがSCAの役割だ。鈴木さんは振り返る。
「数理工学科から銀行というキャリアのスタートが珍しかったからか、ゼミの先生にSCAのお話をいただきました。せっかく声をかけてもらったので『これも何かの縁だろう』と思い、前向きに取り組みましたね。就職活動は不安との闘いのような部分もありますし、コロナ禍なので、合同説明会がなかったり、インターンシップもオンラインだったりで、フラストレーションも小さくなかったと思います。ですから、そこの助けになればという意識は持っていました」
数理工学科の集大成としては社会情勢に注目した。自分たちを取り巻く新型コロナウイルス感染症はどんな傾向を見せ、いつごろ収束するのか。卒業論文ではコロナをテーマに選び、厚生労働省が発表する新規患者報告数や新規入院患者報告数などのオープンデータを活用した。自分なりにさまざまな仮説を立てたうえで、数学的に感染者の増減の推測する論文執筆は決して順調ではなかったという。
「コロナ禍で登校できないので、先生になかなか質問できなかったのが外的要因で苦労した点です。それから、未来の予測をするので、前例がないなか自分で導き出さないといけない大変さもありました。ただ、いわゆる第7波で2022年夏に感染者数が急拡大し、そこで多くの人が免疫を持って、感染者数が減っていくという流れはシミュレーションどおりだったので、自分のなかで数学への信頼度は増しました」
武蔵野大学を卒業し、千葉銀行に入行してもうすぐ3年がたつ。数理工学やプログラミングの力で社会に貢献したい思いが強まってきた。鈴木さんは未来を見据える。
「銀行の業界でもデジタルトランスフォーメーションが推し進められています。紙の書類からデジタル化に移行したり、口座を管理できる通帳アプリを提供したり、顧客アンケートをデータベース化して効果的な営業をしたり、新しい取り組みが行われています。こればかりは縁ですが、いずれは武蔵野大学で身につけた数理工学やプログラムの知見、あるいはデータ分析の力を生かして銀行業務を含む社会の課題解決に貢献したいです」
※記事中の肩書きは取材当時のものです。また、学校名は卒業当時の名称です。
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