武蔵野マガジン

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やり切る挑戦を創造する|宇野瑚太郎さん

文=菅野浩二(ナウヒア) 写真=アントレプレナーシップ学部提供、鷹羽康博

宇野瑚太郎(うの・こたろう)|株式会社Wilup 代表取締役

東京都出身。関東第一高等学校で学んだあと、2025年3月に武蔵野大学のアントレプレナーシップ学部アントレプレナーシップ学科を卒業。在学中を振り返り、「行動している人間、頑張ろうとしている人間を支えてくれる環境は、僕に合っていました」と話す。アントレプレナーシップ学部への進学を勧めていた高校生の弟も2026年4月から同学部で学ぶ予定。趣味はサッカーやゴルフ。

「会社に入るか。社会を創るか。」という問いに焚きつけられた

抜きん出た行動力で人生を切り開いてきた。そのたくましさの底には高校時代の反省がある。

中学時代はサッカーに打ち込み、ワセダクラブ Forza’02(フォルツァ ゼロドゥーエ)というクラブで全国大会出場を果たした。腕利きのゴールキーパーとしてその能力を認められ、中学卒業後はサッカーの強豪校である関東第一高等学校に進学する。けれども、1年次からAチームに関与する機会があったにもかかわらず、3年次には試合に出ることができなかった。宇野瑚太郎さんはきめ細かに振り返る。

「サッカーの推薦で高校に入ったので天狗になっていたんです。計画を全く立てず、朝練もせず、努力をせずにいたところ、2年生のときに見事ほかの子に抜かされました。そのときに思ったのは、毎日こつこつ積み重ねること、日々を全力で生きることの大切さでした。自分は目標を立てられていなかったし、目標から逆算して行動することもできていませんでした」

試合に絡めない日々を過ごすなか、大学でもサッカーを続ける選択肢は消えた。教員免許を取ってサッカー部の顧問になる未来がすぐに思い浮かびはしたが、何かが違うと感じた。即座に想像できた将来には、あまり心が引かれなかった。

全く別の世界を見たいと考えていたとき、武蔵野大学がアントレプレナーシップ学部アントレプレナーシップ学科(以下EMC:Entrepreneurship Musashino Campusの略)を開設することを知った。EMCは「自分の思考と行動で世界をより良い場所にできると本気で信じる人を増やす」学びの場だという。「会社に入るか。社会を創るか。」と問いかけるキャッチコピーに焚きつけられ、「俺のための学部だ」と直感した。

EMCは「俺のための学部だ」と直感したという EMCは「俺のための学部だ」と直感したという

高校3年生になってほどなく、総合型選抜 I 期(面接型)(以下 総合型選抜)でEMCを受験することに決めた。塾に通うかたわら、「やはり総合型選抜では活動実績が不可欠だ」と思い、大胆に動いていく。まず頭に浮かんだのは「女性の働き方について解決できないか」ということだ。専業主婦である母の「働けるものなら働きたかった」という言葉がずっと頭の片隅に残っていた。

「女性の働き方に関する本を読み、その作者などに片っ端から連絡を入れました。『15分でいいので、僕と話してください』と伝え、お話をうかがったり、子育て世代が抱える悩みや苦しみを『見える化』することが必要なのではないか、という自分の考えを聞いてもらったりしました。自分が住んでいた西東京市の市長室に電話して、西東京市長に会ってもらうこともできました。そういうふうに行動したことを総合型選抜に向けてポートフォリオにまとめたのですが、そもそも行動すること自体が楽しかったんです」

動くか動かないかは自分次第という環境が心地よかった

EMCでは起業家と接する機会にも恵まれた EMCでは起業家と接する機会にも恵まれた

無事、合格を果たしEMCの1期生となると、寮生活が始まった。EMCでは1年次、全員が入寮する決まりだからだ。

曰く「寮生活は、めちゃくちゃよかったです」。約70人との共同生活は、挑戦しようという情熱にあふれており、自分も負けずに頑張ろうという気持ちになった。そこには「人の夢を笑わない」という価値観があり、動くか動かないかは自分次第という環境が心地よかった。

高校時代の反省から「目標を立てて、自分との約束を守れる人間になろう」と決めて入ったEMCの1年次では「自分が何をやりたいか」を問われる時間が多かったという。

「今までの人生を振り返って『何をやりたいか』を常に問いかけられました。よく覚えているのはEMCの岩佐大輝先生の授業で、『自分が血沸き肉躍ることは何か』を一年間、問われました。漠然となんですがそのとき自分は『教育をやりたい』と思ったんです」

2年次には「やはり教育に取り組みたい」という思いがより強くなった。友人たちと3人でマンションのごみ捨て代行業を約一年間続けたものの、お金だけで回すビジネスは楽しくないと気づき、将来にわたってやりたいとは感じられなかったからだ。

「自分の本当に好きなことは何か」と自問自答を繰り返すなか、サッカーに熱中していたころ、自分の言葉で周りが動き、結果につながる経験が楽しかったことを思い出した。

1年次に漠然と抱いていた「教育をやりたい」という思いは「何かを伝えて伸ばしてあげる教育に携わりたい」というより強い意思へと変わっていった。

2年次には海の向こうで貴重な経験も得ている。EMCの「2022年度グローバルアントレプレナー海外研修」に参加し、8月から9月にかけてアメリカのカリフォルニア州シリコンバレーを訪問。「スタートアップの聖地」と呼ばれる地域で新興企業やベンチャーキャピタルなどをめぐり、大きな刺激を受けた。宇野さんの目が輝く。

「日本ではある程度行動できている自覚はあったのですが、その自信を見事に打ち砕いてくれた場所がシリコンバレーでした。日本ではどれだけ成功したかをアピールしますが、向こうではどれだけ失敗したのかが問われ、その失敗がどれだけ価値のあるものかをみんなアピールしていました。そのときに『自分は全然失敗していないな』と感じたんです。失敗は挑戦した証。『もっと挑戦して行動しなければいけない』と、いい意味で焦りました」

シリコンバレーでの研修後、2年次が終わるころには「教育に携わる」という方向性を固め、失敗を恐れずより前に進む覚悟を決めた。

3年次に複数の高校で授業を展開するプロジェクトを開始

2年次までの経験をふまえ、3年次には複数の高校で探究学習プログラムの授業を展開するプロジェクトを始めた。授業のベースとしたのはEMCのカリキュラムだ。「自分の過去を振り返る」「価値観を知り倫理観を学ぶ」「社会課題やリーダーを知る」過程を経て、最終的には自分の未来と社会への働きかけを考え、志を明確にしていく。「誰でも行動できる、挑戦できるということを伝えたい」という強い信念のもと、未来が無限にある高校生と真剣に向き合う時間を過ごした。

出張授業により力を注ぐべく、4年次の9月には友人の原田弘脩さんと株式会社Wilupを立ち上げた。宇野さんは説明する。

「社名の『Wilup』の『Wil』は『将来やりたいこと』で、それを昇華させるという意味で『up』がついています。意思を示す英語の『Will』の『l』が一つ足りないのは、誰もが『Will』を持っているわけではないし、それに気づいていなくても、一緒に挑戦していこうという思いが込められています。会社のミッションは『やり切る挑戦を創造する』というもので、自分が挑戦する、行動することで可能性が広げられることを知ってもらいたいと考えています」

「教育に携わる」という思いは高い評価を得ている。卒業間近の2025年2月、EMC生をはじめ起業を志す都内の学生やアジア各国の大学生が登壇した「EMC GLOBAL SUMMIT」という起業イベントで、グランプリにあたる「EMC 1st PRIZE」を受賞した。

「俺のための学部だ」と直感したEMCでの4年間を振り返り、「自分は最高の選択をしたと思っています」と胸を張る。学部長の伊藤羊一先生はもとより、ゼミでお世話になった佐藤大吾先生や白木夏子先生、「自分が血沸き肉躍ることは何か」を問い続けてくれた岩佐大輝先生やプロジェクトでメンターを務めてくれた平石郁生先生など、恩師とは教員と学生というより人生の先輩と後輩という関係が築けた。先達との距離の近さと仲間たちの情熱が、自分の行動力をさらに強めてくれたと感じている。

現在は2025年9月に第1期を終えたばかりの株式会社Wilupの事業拡大に力を注ぐかたわら──夢の一つは上場だという──EMCの授業で学生へのインターン先のアドバイスを行っている。「ゆくゆくはEMCに教授として戻れるくらいになりたいです」と将来を見据える視線の奥には、「やり切る挑戦を創造する」という高い志がある。

※記事中の肩書きは取材当時のものです。また、学校名は卒業当時の名称です。

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